谷崎 テトラさん「その運動は『新しい時代意識』を準備している」

 「オイルピーク(石油の枯渇)と温暖化の進み具合次第でバイオマスや太陽光発電などの代替エネルギーも意味を失う。もっとエネルギーを使わない社会という未来も視野に入れて、国・地域・個人の生き方をデザインしなければならない。」


 パーマカルチャーの創始者デヴィッド・ホルムグレンが警告したのは21世紀の初頭でした。その後、国際エネルギー機関(IEA)が、在来型石油の生産量が2006年にピークを迎えた可能性が高いと明らかにしました。「気候変動」という言葉は、今では「気候危機」と呼ばれ、2050年までに脱炭素社会への転換が必要と言われています。


 2005年秋にパーマカルチャリストのロブ・ホプキンスが始めたトランジション運動はオイルピークと気候変動という危機を受け、脱石油型社会へ移行していくための草の根運動として、世界に広がっていきました。この取り組みは、公式に認定されている運動事例は900以上、非公式のものも含めると1800に達しています。日本でも50以上の運動が起こりました。


 日本でのトランジション運動の草分けの一つが「トランジション藤野」です。衣食住、エネルギーを見直し、森を保全し、独自の地域通貨を発行し、新しい暮らしかた、新しい生き方を実践し、住んでいる町をトランジションさせていく。今、最もクリエイティブな地域、最も進歩的なコミュニティの一つです。


 その「トランジション藤野」のストーリーが、今回ついに語られることとなりました。どのように始まったのか。そのスキル、マインドセット、具体的なステップが詳細に語られています。


 「トランジション」とは、ある段階から次の段階へと移行する時期のことです。それは人や社会の大きな変化をもたらす重大な局面(クライシス)であると同時に、それまでの経験を見直し、新しい選択肢や変化をもたらす転機のこと。

 ガンジーはその「教育論」の中で「村の問題を解決すれば、それは世界の問題に解決する」と語っています。市民の創意と工夫、そして地域の資源を最大限に活用しながら、自分たちの街を「トランジション」させていく。それは世界を変化させるための、地に足のついた、最も確実な方法と言えるでしょう。そしてそれは「あなたの町」でも始めることができる。


 1973年に経済学者のシューマッハは「スモール・イズ・ビューティフル」(小さいことは美しい)と言ったけれど、ロブ・ホプキンスは「スモール・イズ・イネビタブル」(小さいことは、避けられないこと。)と語りました。ピーク・オイルと気候変動に対しては小規模化が不可避です。まずは小さく始める。世界を変化させるためには、自分の町をトランジションさせる。これまでの価値観を変え(チェンジ・ザ・ドリーム)、暮らしかたや住んでいる町を変化させ(トランジションタウン)、世界そのものを転換(ワールドシフト)させていくムーブメント。それは地球上のすべての人が、環境的に持続可能で、社会的に公正で、精神的にも充足した生き方を実現すること。「トランジション」とは、今起きている「変化」のことであり、文明の「移行」のことであり、現在、その運動は「新しい時代意識」を準備していると僕は考えます。


 「トランジション」というこの素晴らしいアイデアを、ぜひ皆さんの町のアクションへつなげてみませんか?。トランジション・モデルで、地域のレジリエンス(復元力)を作り出して行きませんか?。この一冊の本から始まります。

谷崎 テトラ(たにざき てとら)

京都芸術大学客員教授/放送作家/メディアプロデューサー/ワールドシフトネットワークジャパン代表理事/アースデイ東京ファウンダー

1964年、静岡生まれ。環境・平和・アートをテーマにしたメディアの企画構成・プロデュースを行う。価値観の転換(パラダイムシフト)や、持続可能社会の実現(ワールドシフト)の 発信者&アーティストとして活動は多岐に渡る。アースデイ東京などの環境保護アクションの立ち上げや、国連 地球サミット(RIO+20)など国際会議のNGO参加、SDGs、ピースデー(国際平和デー)などへの社会提言・メディア発信に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見と実践の経験を持つ。世界のエココミュニティを取材し、エコビレッジの共同体デザイン、地域通貨、共同体教育、パーマカルチャー(持続可能な農的文化)などの事例研究から、カルチュアルクリエイティブス(文化創造者)、先住民から学ぶディープエコロジーの思想まで、未来のデザインのための智恵を伝え、それぞれの地域や現場に生かす仕事をしている。メディアの企画構成としては「素敵な宇宙船地球号」(テレビ朝日)、「アースラジオ」(INTER FM)「里山資本主義CAFE」(NHK World)環境省「森里川海」映像など多数。YOUTUBE「テトラノオト」で持続可能性や創造性についての動画BLOGを毎日更新している。

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