塩見 直紀さん「創造力という再生可能エネルギーが解き放たれる」

危機に面したとき、人はどうしのいで、乗り越えていくのか。私の場合は、大学4年のころから書き留めてきた先人等の言葉に救われることが多い。

パンデミックの2020年、すぐ思い出されたのが哲学者・梅原猛さんが東日本大震災の際、述べられた「私は思想家として、目前のことに一喜一憂せず、そういう日がこないように確固たる思想を用意しなければならないと思っている」という言葉だった。

「わたしたちの社会がいつの日か、大きな危機を迎えたときに、こんな考え方がかつてあった、こんなやり方もありうるという選択肢をどれだけ用意しておけるかということにかかっている」という哲学者・鷲田清一さんの言葉にも力をいただいだ。鷲田さんは「世界について、ときに奇矯とも唐突ともいえるイメージやヴィジョンが描けること」が大事だという。

榎本さんの『僕らが変わればまちが変わり、まちが変われば世界が変わる』を拝読して感じたのは、梅原さんと鷲田さんのいう「確固たる思想」「こんなやり方もありうるという選択肢」「世界についてイメージやヴィジョン」がまさにここにあるということだった。私は25年ほど前から半農半Xという生き方を提唱している。半農半Xという「羅針盤」をもっているし、北極星や灯台の灯りのような「向かうべき先」もわかっているつもりだが、それでも、この1年は悩み、思索することも多かった。そんな中、榎本さんの本を読む機会をいただき、「創造力という再生可能エネルギーが解き放たれる」のを私のなかに感じたのだった。

トランジション藤野からの依頼で日本のパーマカルチャーとトランジションタウンのメッカ、藤野を初めて訪れたのは2015年のことだった。それがきっかけとなり、同年、東京で「半農半X、パーマカルチャー、トランジションタウン共同シンポジウム」が開催されることになった。これまではあまり一緒に語られることが無かったこれら3つの取り組みが協働することで、新たな可能性が生まれてくるのではないか。そんな予感のもとにシンポジウムが企画された。もうキーワードはすでにある。あとは私たちが動けるかどうか。変われるかどうか。私の平成の30年間の裏テーマは「人はいつ変われるか」だった。大事なのは「あるもの」に気づき、新しい組み合わせをまちで創ること。榎本さんの本を読んで、大きな制約、難問を乗り超えて、楽しみながら、自分のXを世に活かしてくれる人が1人でもあらわれたらうれしい。

塩見 直紀(しおみ なおき)

半農半X研究所 代表

1965年、京都府綾部市生まれ、同市在住。
1999年、33歳を機に故郷へUターン。2000年、「半農半X研究所」を設立。21世紀の生き方、暮らし方として、「半農半X(エックス=天職)」コンセプトを25年前から提唱。著書に『半農半Xという生き方【決定版】』など。半農半X本は翻訳され、台湾、中国、韓国でも発売され、海外講演もおこなう。若い世代のXの応援のために、コンセプトスクールや半農半Xデザインスクールなどをおこなってきた。めざすところは、「ことばで世界をデザイン」。「AtoZ」という古典的編集手法を使い、「人と地域のXの見える化」を研究中。福知山公立大学地域経営学部特任准教授、総務省地域力創造アドバイザー。