野村 恭彦さん「地域から世界を変えるためのヒントが、すべて揃っている」
「地域から日本を変える」
この言葉は、私のSlow Innovationという会社のミッションなのですが、そのままこの本の帯に差し上げたいと、いま心から思っています。この本には、この世界がどうなってほしいかというビジョン、それをどう実現すればいいかという方法論、そして藤野で実際にどんなことが起きたのかというケースと、地域から世界を変えるためのヒントが、すべて揃っているからです。
榎本ヒデさんのトランジションタウンの活動が知りたくて、何度か藤野を訪問したことがあります。最初は一人で、ヒデさんにまちなかのアート活動や藤野電力というエネルギーの自産自消の活動、そして萬という通帳型の地域通貨の紹介をしてもらいました。通帳型の萬はお金のやりとりというよりは、感謝の記録です。ちょうど二人で食事をしているときに、ヒデさんがレストランで偶然会った知人からチェーンソーを借りることになりました。これも、感謝の萬に記録されるわけです。
二度目の訪問では、社会起業家の友人たちにぜひ藤野の活動を紹介したくて、ヒデさんに案内を再度お願いしました。その時は、森の間伐をしているところにも連れて行ってもらいました。素人にも安全に木を切れる方法を説明いただいたのですが、すっかり忘れていて、改めて本書で理解し直しました。その数年後に関東地方を巨大台風が襲った時には、間伐をしていた地域は被害を免れましたが、手の回らなかったところで、おおきな地崩れが起きてしまったそうです。そのことを本当に悔やんでいるヒデさんの責任感に、心を動かされたことを覚えています。
トランジションタウンは、誰もがそのまちのコミュニティ活動に自分のペースで参加できる、オープンプラットフォームです。市役所や区役所がこのプラットフォームを取り入れれば、まちは一気に参加型社会に変わる可能性があると思います。トランジションタウンでは、私たちは行政サービスを受けるだけの受身の市民ではなく、主体的なまちの貢献者なれるのです。
また、今では企業も注目して取り組み始めているSDGsのヒントも豊富です。自治体職員の方々にも、企業でSDGsに関心ある方々にも、ぜひ本書を読んでいただきたいと思います。
僕らが変わればまちが変わり、まちが変われば世界が変わる。まさに、その通りだと思います。私も、このことを信じチャレンジしていきます。皆さんも、ぜひご一緒に!
野村 恭彦(のむら たかひこ)
Slow Innovation株式会社 代表取締役
金沢工業大学(KIT)虎ノ門大学院イノベーションマネジメント研究科 教授
慶應義塾大学修了後、富士ゼロックス株式会社入社。同社の「ドキュメントからナレッジへ」の事業変革ビジョンづくりを経て、2000年に新規ナレッジサービス事業KDIを立ち上げ。2012年6月、企業、行政、NPOを横断する社会イノベーションをけん引するため、株式会社フューチャーセッションズを創設。2016年度より、渋谷区に関わる企業・行政・NPO横断のイノベーションプロジェクトである「渋谷をつなげる30人」をスタート。2019年10月1日、地域から市民協働イノベーションを起こすための社会変革活動に集中するため、Slow Innovation株式会社を設立。
著書に「イノベーション・ファシリテーター」「フューチャーセンターをつくろう」「裏方ほどおいしい仕事はない」(ともにプレジデント社)、「サラサラの組織」(共著、ダイヤモンド社)。監訳に、「シナリオ・プランニング――未来を描き、創造する」、「発想を事業化するイノベーション・ツールキット」、「未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう──震災後日本の「コミュニティ再生」への挑戦」(ともに英治出版)、「ゲームストーミング」、「コネクト」(ともにオライリージャパン)、「コミュニティ・オブ・プラクティス」(翔泳社)などがある。