鈴木 菜央さん「価値がないとされてきたことが、つながることで豊かなものに変わる」

以前、『トランジション・ハンドブック』(ロブ・ホプキンズ著)が出たときはにむさぼり読みましたが、とても難解でした。今回この本によって、日本の事例が出てくることはみんなにとってとても貴重なことです。


本当に幸せに暮らすためには一人ひとりが生き生きし、社会が生き生きし、惑星が生き生きする必要があります。一人で幸せになるのは難しい。みんなが力を合わせてやることによって、活動が可能になります。


日常の問題が環境の問題、地球の問題につながっている、そんなことを感じる活動がトランジション・タウンだと思います。
いすみで実際に活動をしていてつくづくそう思います。

自己責任、お金がすべて、給料がすべて、サポートやケアが行き届かない。そんな新自由主義という大きな物語が私たち一人ひとりに染み付いてしまっています。弱肉強食、お金がないと何もできないないと思わされています。


それに対してトランジション・タウンは、「そうじゃないんだよ、別のストーリーもあるんだよ」ということを指し示してくれています。

まず共感があって、例えばたまたまお金のない時期だったとしても、どうにかなると思える。むしろお金ではない関係性があることで、いまままでの関係性ではとても起こらないすごいことがたくさん起こる。そして、つながらなかった領域がつながってきます。


みんなどこかで自分は足りないと思って生きています。お年寄りはもう体力がない、若い人はまだ経験がないなど、トランジション・タウンではその足りないことがつなげるきっかけになったりします。


関係性が変わると人間ってこんなにポテンシャルがあるんだと気づかせてくれるのです。孤立した中では価値がないとされてきたことが、つながることによって実はとても豊かなものに変わっていく。
その豊かさに、一番早くアクセスできるのがトランジション・タウンだと思います。


どこにでもある普通のまち、藤野でできたんだったらどこでもできると思わせてくれる本じゃないかな。


斎藤幸平さんの。『人新世の「資本論」』を読みましたが、最後のほうはコモンズの話になってきます。
トランジション・タウンの動きもこれと地続きだと思います。

鈴木 菜央(すずき なお)

NPOグリーンズ代表、greenz.jp編集長

76年バンコク生まれ。6歳より東京で育つ。高校卒業後、阪神淡路大震災のボランティアを経験、99年よりNGOアジア学院にて1年間自給自足コミュニティでの農的生活を経験。2000年より外資系建築コンサルタント会社に勤務、02年より3年間「月刊ソトコト」にて編集・営業として勤務。05年に独立、フリーランスとなり、06年「ほしい未来は、つくろう。」をテーマにしたWebマガジン「greenz.jp」を創刊。千葉県いすみ市在住。家族4人で35㎡のタイニーハウス(車輪付き)+小屋にて、小さくて大きな暮らしの実験中。2016年、築百年以上の古民家と2600坪の敷地で暮らしづくり、社会づくりを学ぶ「パーマカルチャーと平和道場」プロジェクトを開始。著作に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』(講談社 星海社新書)。
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