枝廣 淳子さん「新しい時代の組織論、運動論、そして人間論の本」
「気候変動と新型コロナウィルスの世界的な感染拡大という、2つの危機は元をたどると同根である」という著者の考えに私も賛成です。そして、「その解決策は地域にある」ということも。
国レベルや国際的なレベルで、政策を作ったり方向性を示すことももちろん大事ですが、実際の変化が生まれるのは地域です。地域を変えていかなくては、気候変動にもパンデミックにも、日本の社会を足元から脅かしている人口減少や人々の絆の弱化、地域経済の疲弊などの課題にも、立ち向かうことはできません。
「希望は地域にしかない」――そう思って、私はコロナ禍をきっかけに熱海に完全移住し、熱海というリアルのフィールドで様々な活動を始めています。
地域での活動を展開する上で、トランジションタウンほどお手本になるものはないでしょう。私は、トランジションタウン発祥の地・トトネスを訪れて、さまざまな活動を展開しているメンバーの方々の話を聞かせてもらったことがあります。世界中に知れ渡る素敵な活動を展開しながら、専従スタッフもいなければ、立派な建物もない、廃校になった小学校の小さな教室の一部を事務所として活動していることにびっくりしました。「しっかりした組織と、潤沢な資金がなければ、大きな運動が展開できない」という、多くの人々の持つ思い込みをここまで鮮やかにひっくり返してくれるのがこのトランジションタウン運動なのです。
日本でも、神奈川県の藤野をはじめ、さまざまな地域でトランジションタウンの取り組みが進められていることは承知していましたが、今回本書で、藤野で具体的に何が起こったのか、どのように展開してきたのかを知ることができました。何よりも、その紹介をしながら、トランジションタウンの哲学・基本理念・ノウハウをわかりやすく解説してくれる本です。そして、これは単なる「まちづくり」の本ではなく、新しい時代の組織論、運動論、そして人間論の本です。
私のこの本はマーカーだらけです。これから自分が熱海で活動を展開していく上でも、まちづくりをお手伝いをしているさまざまなまちの取り組みを支援する上でも、本書が惜しげもなく提供してくれる多くの知恵や学びを存分に活用させてもらって、わがまちが、そして日本の多くの市・町・村が持続可能で幸せなまちへと「トランジション」(移行)していく一助となりたいと思っています。
まちづくりに関心を持つすべての人へ。そして、まちづくりに関心がなくても、21世紀型の組織のあり方を考えたい人にも、必読の一冊です。榎本さん、素敵な本を書いてくれてありがとう!
枝廣 淳子(えだひろ じゅんこ)
大学院大学至善館教授、幸せ経済社会研究所所長、株式会社未来創造部代表
『不都合な真実』(アル・ゴア氏著)の翻訳をはじめ、地域経済や環境問題に関する活動を通じて「伝えること、つなげること」で変化を創り、しなやかに強く、幸せな未来の共創をめざす。
島根県隠岐諸島の海士町や熊本県の南小国町、北海道の下川町等、
意志ある未来を描く地方創生と地元経済を創りなおすプロジェクトにアドバイザーとしてかかわっているほか、自治体や企業において合意形成の場づくりやファシリテーターを務めている。
主な著訳書に『レジリエンスとは何か-何があっても折れないこころ、暮らし、地域、社会をつくる』(東洋経済新報社)、『地元経済を創りなおす』(岩波新書)、『世界はシステムで動く』(英治出版)、『海と地域を蘇らせる プラスチック「革命」』(日経BP)ほか多数。
東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。